君にクラクラ恋愛小説

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恋愛小説のララバイ

恋愛小説なんでかんでも大集合

雪が降った。 ずっと昔から好きだった人に告白して振られた。  カランコロン。 冬だって言うのに、あなたはストローで炭酸の泡を纏う氷をつつきながらあなたは微笑む。  その微笑みに私は見惚れ、その白い肌に視線を外せなくなった。  いつからだろうか。 あなたを先輩として見れなくなったのは。  あなたを見るたびに胸の奥がきゅっと疼いて、あなたに触れるだけで心臓が忙しなく動き始めた。 初めての感情、初めての感覚。 これが恋だと気づくまでに、一カ月も必要だった。  恋だと気づいてからは大変だった。 恋愛をしたこともなければ興味もなく、本は読むものの恋愛小説には一切手をつけてこなかった私には「恋愛」なんて何一つわからない。 どうしたらこの高鳴る胸を鎮められるんだろう。どうしたらあなたと目を合わせられるんだろう。どうしたらあなたに振り向いてもらえるんだろう。 片思いながら、あなたのことをいつも考えては鼓動を速めていた。  あなたのことを先輩と見れなくなってからはや半年。 私はまだ告白も出来ていなければ、先輩との関係をもっと深めようともしていなかった。 したくなかったわけじゃない。できなかった。 勇気もないし、方法もわからない。振られるくらいならずっと隠していたい。  そう思っていたはずなのに...。     雪だ。  朝目覚め、閉め切られたカーテンを開けるとそこには見慣れた光景ではなく、真っ白な世界だった。 いつもと違う。 それだけで、誕生日プレゼントをもらった子供のように目を輝かせ、ワクワクした。  ここで私は静かにカーテンを閉めていれば良かったんだ。 そうしていれば、今私はこんなにも胸が苦しくなっていなかったのに。          「ごめん、好きな人がいるの」  私の初恋はこの一言であっけなく終わった。 まるで雪が手のひらで溶けるように短く、そして儚い。  なにを思ったのだろうか。 都会では滅多に見ることのできない雪にテンションが上がったのか。それともその場の成り行きか。 汚れ一つない窓から見える舞い散る雪。 いつもと様子が違う街とは違い、いつものように冷たい炭酸に口をつけるあなたに告白してしまった。 「ずっと前から好きでした」と。    なんであんなこと言っちゃったのかな。 こうなることはわかっていたはずなのに。こうなるのが怖くてずっと隠していたのに。  「はぁ...」  深く吐いた息は、白い街に紛れ消えていく。 儚く散った私の恋を隠すように、雪はさっきカフェの窓から見たときよりも強くなっている気がした。  カフェの前、一人立ち尽くす私の前を横切る傘をさした人たち。 ガチャガチャとチェーンをタイヤにつけた車が忙しなく通り過ぎていく。  まるで私だけこの世から仲間外れにされているみたいだ。 誰も私を視界に入れようとはしない。どの車も私の前で止まろうとはしない。  君だけだよ。 私のことを受け止めてくれるの。  真っ白な雪が、あなたの白い肌を思い出させた。 ブーツを優しく包み込む雪が、あなたの優しい雰囲気と重なった。  好きな人がいるなら仕方ないよね。わかってる。 後輩の私なんかと付き合ってくれるわけがないよね。わかってた。 わかってるよ、全部。知ってたよ、全部。  だけどちょっとだけ期待しちゃったんだ。 もしかしたらって...。  じわりと目頭が熱くなり、視界がぐにゃりと歪んだ。  「奈々未...先輩...」  冷たい頬に伝う温かい涙の跡を、雪がふわりと隠した。            「きれいだね~」  朝起きると、彼女が可愛らしいピンクのカーテンを開けた。 なにやら楽しそうな彼女の声に、まだ半分も開いていない目で明るい窓の外を見る。  「あ~ほんとだ」  昨日の大雪とは違い、今日は雲一つない快晴だ。 目の前の家の屋根に積もった真っ白な雪が日の光を反射してキラキラと輝いている。  雪が降ると交通機関に影響が出たり雪かきがめんどくさかったりして好きじゃなかったけど、意外ときれいだな...。 それよりも、小さな子供のように目を輝かせ、目の前の景色に感動している彼女のほうがきれいだけど。  「お散歩行こうよ!」  私が、外の景色ではなく彼女のことを見ていることなんて気づかない彼女は、くしゃっと笑って私の冷たい手を握る。 きっと足元は凍って滑るんだろうな。歩きにくいし寒いし今日は外に出たくない。 だけどそんな顔されたら、そんな考えは頭から吹っ飛んでしまう。  「行こうか、散歩。きっときれいだ」  「うん!じゃあ朝ごはん作るね」  「私も手伝うよ」  ふふ~ん♪と鼻歌を歌いながらパジャマの上からエプロンを付ける彼女の背中を追う。  今は彼女と一緒にいることが一番幸せな時間だ。 本を読むよりも、彼女の隣にいたい。彼女を感じていたい。  「ねぇまいまい」  「なぁに?」  キッチンから、笑顔の彼女が顔を覗かせる。 可愛らしいその姿に心臓が喜びだす。  「好きだよ」  「うん、私もななみんのこと好きだよ!」  ちらりと見た窓の外には、温かい日差しに照らされ溶けた雪が、昨日降るはずだった雨の後を追うように屋根から雨のように降り注いでいた。           

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